近年、雪国の福井でもスキー授業は減少傾向にあります。 教員に求められる力について、スポーツのリスクマネジメントを研究している水沢先生と、 現職教員として学校の安全管理を学ぶ大学院生の道内さん、体育教師を目指して勉強中の前田さんにお話を聞きました。
[参加者]
水沢 利栄先生/教育地域科学部芸術・保健体育教育講座
道内 博道さん/大学院教育学研究科教科教育専攻1年
前田 洋和さん/教育地域科学部学校教育課程芸術・保健体育教育コース3年
水沢先生
水沢 学習指導要領は地域の特色を生かした授業を推奨し、降雪地域の学校はスキーを積極的に取り入れるよう示しています。しかし、福井県内におけるスキー授業の実施率は地域のバラつきが大きく、数年前の調査では、奥越・坂井地域の実施率が非常に高い反面、福井市は2割に満たないという結果でした。 道内さんが勤務していた学校ではどうでしたか。
道内 福井市と小浜市の小学校に10年間勤めていましたが、どちらにもスキーの授業はありませんでしたね。ただ、私の子どもが通う学校にはありました。学校側は、指導や安全管理のサポート役として保護者に協力を募り、児童40名ほどの引率に、保護者15名ほどが同行しました。でも、協力者の募集はとても大変そうでしたね。
水沢 協力してくれるスタッフの確保をはじめ、安全性の問題、教員の負担、経費など、様々な問題があることから、実施できない学校が多いのでしょう。
前田 私も、通っていた武生の小学校で習った記憶がありません。授業で習わないからか、スキーをするという声は周りにも少ないですね。でも、できる人たちをとてもうらやましいと思います。
道内さん
水沢 実施のハードルは高いですが、子どもたちは非常にやりたがっています。スキーやスノーボードが楽しめれば、冬が嫌な存在ではなく、待ち遠しいものになります。また、冬場の健康づくり、運動不足の解消にも繋がります。親子や友人、恋人同士のコミュニケーションにも有効で、世界も広がりますよ。 日本では最近、スキー場に行く人が最盛期だった1994年の3割程度まで減っていると言われていますが、アメリカやカナダなど海外では今でも右肩上がりで増えています。スキーは重要なスポーツとの認識が高く、学校や家庭で子どもへの指導が積極的に行われているのです。またスキー場のリスクマネジメントもしっかりしていることから、スキーを安心して楽しめる環境も整っています。
道内 子どもが小さいころは、よく家族でスキーに行きました。せっかく福井に生まれ育ったのだから、スキーはできてほしい、体験してほしいと思っています。
前田さん
水沢 スキーをはじめ、地域の特性を生かした授業を行うには、実技指導をする能力はもちろん、天候から安全管理まで幅広い知識と経験が必要です。そのため、若いうちにいろいろ経験しておくことが大切です。経験がないまま教師になり「スキー授業の準備をしてください」といわれても対処できないですよね。
道内 特に安全管理は、どの授業でも非常に大切であると、教員を20年経験して強く感じています。学生時代は、正直言って、その意識は薄かったのですが、授業や部活動で怪我をする子どもを目の当たりにし、大学院で改めて安全管理について学ぼうと考えました。現在は特に、熱中症について研究しています。
水沢 確かに若い学生の興味は、いかに上手くなるか、技能を高めるかといったことに向かいがちですね。しかし、現場で子どもや保護者と接していくうちに、安全管理の大切さを認識することも多いようです。本来はどちらもしっかり学んでおくことが大切です。
前田 学校で起こる熱中症や、それに伴う教員の責任については、私が中学生の頃から頻繁に耳にするようになりました。私はダンスでアクロバットの技をするのですが、怪我をすると何週間も練習できなくなってしまい、とても辛い思いをします。怪我の予防には本人の意識はもちろん、指導者の認識もとても大切だと考えています。
道内 学校現場には様々なリスクがあります。事故やトラブルを防止するために、教員は日ごろからどんな心構えをもつことが必要なのでしょうか。
水沢 まずは、最新の対策を知っておくことが必要です。自分が想定しないことは起こらないというぐらいに、予測できる力を身につけておくことも重要です。そのためには知識と経験が必要になります。学校現場には、事故や怪我のほかに、熱中症や食中毒、ケンカ、金銭トラブル、他人に怪我をさせてしまうなど様々な危険があります。それらを日頃からどう防止するか、救急の対応や補償対策を考え、法的責任をいかに回避できるようにしておくか、過去の事例からも知っておかなければなりません。
道内 放課後に校庭で子どもが遊んでいたとき、腐食した遊具の支柱が壊れ て子どもが怪我をしたことがありました。腐食は目に見えない土に埋まっていた部分で発生していましたが、この経験で、教員の予測すべきことの広さを実感しました。学生時代なら、怪我の責任は自分自身にしかないと考えるため、リスク管理という観点から物事を捉えることは難しいと思います。しかし、指導者として現場に出ると責任が伴うため、初めにどんな危険性があるかを考えて授業や部活を進めるようになりますよ。
水沢 前田さんは現在3年生ですが、これからについて、考えるところはありますか。
前田 安全管理の重要性は理解できましたし、怪我などのリスクは避けるように注意していきたいと思います。ただ、あまり慎重になりすぎて、つまらない授業にはしたくないです。私自身、体育の授業がとても楽しみな子どもだったので、楽しさと安全を両立できることが理想ではないかと思いました。それができる先生になりたいですね。
水沢 ぜひ、がんばってください!