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インドネシア留学記 ~熱帯の地で医学を学ぶ~

医学部医学科4年

松田 里砂

私は、インドネシアのアイルランガ大学で3週間の研修をしました。最初の2週間はアイルランガ大学ストモ病院で主に産科婦人科の病院実習をし、残りの1週間は熱帯病研究所ITD(Institute of Tropical Disease)で鳥インフルエンザの研究を見学しました。ITDには神戸大学の研究拠点(感染症研究国際展開戦略プログラム:J-GRID)があり、加えて今春には、福井大学医学部とアイルランガ大学医学部との医学教育に関する学部間協定が発効します。インドネシアでの研修についてはこれまでの先輩の体験記が大いに参考になりました。

アイルランガ大学病院の近くにある記念碑と

病院実習で経験したこと

産科婦人科の病院実習ではアイルランガ大学の4、5年生と一緒に研修させていただきました。インドネシアではインドネシア語が公用語であり、もちろん病院でもインドネシア語が使われており、アイルランガ大学の学生が英語の通訳をしてくれました。英語で勉強するということはとても刺激的なことでした。毎日朝9時ごろから夕方まで病棟見学や外来の見学、病院の施設の見学などをしました。

時には朝7時から病院での医師・看護師・医学生によるモーニングレポートにも参加しました。前日に行った処置等の報告や課題の報告をしますが、私のほかに留学でスペイン、フランスの医学生2人が来ていたこともあり、英語でのモーニングレポートも開いてもらいました。また、病院実習のうち2日間は夜のシフトにも参加させていただきました。インドネシアの医学生は週に2回ほどの夜番があるそうです。

病院実習における私のスーパーバイザーは、産科婦人科の権威のあるPungky 先生で、手術の執刀を頻繁に行っており、私は複数回オペの見学をさせていただきました。胞状奇胎の摘出術、チョコレート嚢胞患者の卵巣摘出術や、HIV感染患者の帝王切開や、前置胎盤患者の帝王切開などのオペでした。日本の医学生のカリキュラムは5年生から病院実習を行い、それまでは講義などの座学が中心ですので、4年生の私は日本でも手術はほとんど見たことがなかったので、手術着の着衣方法から全部教えてもらいました。すべてが新鮮でとても刺激的でした。

日本でもHIV感染者は増えているようですが、インドネシアでは一般市民の性感染症への理解が少なく、日本よりも患者が多いようで、妊婦感染者も多く、私の研修していた病院ではHIV感染患者の帝王切開が週に2、3回あると聞きました。そのような感染症の患者の帝王切開では、新生児への産道感染とともに医療従事者への感染の予防も重要です。ほかの患者の帝王切開術の時とは違い、手術台をビニールで何重にも包んだり、医学生には普段よりも近づかせなかったり、ゴーグルを着用したりと厳重な感染防護をしていました。

産婦人科を一緒に回った現地学生とヨーロッパからの留学生と私

病院実習を通じて日本との違いに驚いたこと

インドネシアの病院で行われている処置等は、日本と大して変わりがないと思いましたが、病院の様子はかなり違っていました。ストモ病院は廊下が吹き抜け式でした。風が通り、解放感があったのですが、外と通じているため、衛生面を心配してしまいました。そして患者がとても多く、きちんとした待合室のような場所がないため、患者が廊下や地べたに座っているのが普通の光景でした。

病院の中にクラス分けがあることにも驚きました。インドネシア国内では貧富の格差が大きく、どれだけのお金を治療にかけられるかで病棟が違いました。先ほど述べたような吹き抜けの病棟は、普通の経済家庭の人が入院しているそうですが、お金持ちの人は、清潔感があり警備の厳しいホテルのような病棟を利用すると聞きました。こんなに格差があるのかと戸惑いました。

ストモ病院

ITDの見学で経験したこと

私は鳥インフルエンザウイルスの研究をする清水 一史先生(神戸大学インドネシア拠点)の研究室を見学させてもらいました。先生は、新型の鳥インフルエンザウイルスが人間に感染した場合、重症化するのかどうかを研究しておられました。ここでの4日間は、見学が主でした。実験器具は2年生の実習のときに少し触った程度だったので、ピペットマン操作程度しかできませんでしたが、研究室で働く現地のスタッフの方々にPCRの操作やインフルエンザウイルスを培養するための操作など、普段することのできないことを教えていただき、少し体験させてもらいました。私が体験させてもらった実験は、鳥類と頻繁に接触している人や病院関係者の検体から、鳥インフルエンザウイルス抗体や遺伝子が発現しているかどうかを調べるものでした。私が結果を見せてもらった時には、少々のコンタミネーション(他のサンプルの混入)があったようで期待していたきれいな結果は出ませんでした。そのようなことはよくあることのようでしたが、実験過程がとても長かったので、残念でした。研究というものの大変さを少しは感じることができました。

鶏の卵を使って、ウイルスの培養をしました

また、生鳥市場へのフィールドワークにも一緒に参加させていただきました。研究室の方々から衛生状況が非常に悪いと聞いていましたが、実際に足を運んでみると衝撃を受けました。異臭がきつく、鳥の血がそこら中に散らばったようなところで羽毛を乾かしており、羽根をはぎ取られた鳥もその辺りに転がっていました。病気で動けないような弱った鳥もたくさんいました。このような状況下で鶏肉にされたものを口にするのかと思うと少し不安になり、その日から鶏肉を食べるのが嫌になるほどでした。また、市場で働く人々は素手素足で作業をしており、年齢層は小さな子供からお年寄りまでいました。鳥と人では有するレセプターの違い、体温の違いがあることから、鳥インフルエンザウイルスは人には感染しないのですが、特殊な環境下での濃厚接触の機会があれば感染してもおかしくないのではないかと思いました。

生鳥市場にて

4日間という短い間でしたが、研究というものに触れることができて、以前は将来について臨床ということしか頭にありませんでしたが、研究の面白さを知ることができました。結果がなかなか思うように出ないことやコンタミネーションで揺らぐという実験の繊細さ、また、研究に従事する人たちの熱心さも知ることができ、自分の将来の選択肢が広がりました。とても貴重な経験だったと思います。

休日の過ごし方

3週間インドネシアに滞在していましたので、土日の休日がありました。休日は現地で出会った学生や研究室の方々にスラバヤ観光に連れて行ってもらいました。現地では電車などの公共交通機関が発達していないため、一人でどこかに行くというのはほとんど不可能で、車を持っている人に連れて行ってもらいました。現地の人おすすめの料理屋さんに行って、インドネシア料理を食べたり、インドネシアの伝統的な布地であるバティック屋さんや独立記念博物館などの観光地に行きました。モスクも見学しました。日本人だと目立つのか現地の方に写真をせがまれることもありました。私たちのために休日を返上して連れて行ってくれた方々には感謝しています。インドネシアを満喫できた休日でした。

トレンガレックで、伝統舞踊を披露してくれた高校生と

インドネシアでの生活

私は今までに、オーストラリアや韓国には行ったことはありましたが、インドネシアのような発展途上国に行ったのは初めてでした。日本とのギャップはたくさんあり、3週間驚きの連続でした。

私たちは滞在先としてゲストハウスを選択しました。まず、ゲストハウスについてびっくりしたのは、シャワーからは水しか出ないということでした。その水も日本の蛇口からのように勢いよく出るといったものではなく、水勢はとても弱かったです。おそらくその水は雨水をためたものであり、時には土が混ざって蛇口から出てくる時もありました。はじめの2、3日はそのようなシャワーに戸惑い、頭を洗うことも困難でしたが、数日たつと、効率よくシャワーを浴びる方法を自分なりに考え、数分でシャワーを浴びられるようになりました。

また、インドネシアの生活で困ったのは食事でした。私は辛いものが比較的好きなほうなので、渡航前には現地の辛い料理を楽しみにしていました。しかし、インドネシアでいう辛いものとは、私たちの想像をはるかに上回るもので、毎日続くと胃腸を壊しました。辛いことを除けば、日本人が好むような焼き鳥に似たものやチャーハンに似たものが多いのでおいしいと感じると思います。

インドネシアの交通事情に関しても私はすごく驚きました。インドネシアでは車とバイクが主流であり、常に道路が混んでいました。信号があまりないために歩行者にとっては最悪の道路でした。私が目的地に徒歩で行こうとしたとき、どうしても向こう側の道路に渡らなくてはいけないという場面があり、交通量がとてつもなく多いので、その場に20分くらい立往生しました。それを見かねたどこかの会社の警備員の方がホイッスルで誘導してくれましたが、もしその方がいなかったら、どうすることもできなかったと思います。もう少し歩行者に親切な道路であったらと思いましたが、公共交通機関の発達していないインドネシアでそれを実現することは難しいことかもしれません。

日本と大きく違う点では、宗教的なこともありました。日本人はほとんどの人が仏教徒もしくはキリスト教徒、あるいは無宗教だと思いますが、インドネシアのスラバヤではほとんどの人がイスラム教徒でした。インドネシアの空港についてすぐPraying room(お祈りのための部屋)があるのに驚きました。イスラム教徒の人は1日5回メッカに向かってお祈りするということは聞いていましたが、実際に学生たちが実習の合間にしているのを見て、病院でもするのだということに驚きました。

ここではいくつか私が体験したギャップについて記載しましたが、実際体験したものはここに書き切れないほどたくさんあります。このような体験をして、日本がいかに恵まれた国なのかということを改めて実感しました。客観的に自国を見つめることができるきっかけになりました。当たり前だと思っていたことは、実は贅沢すぎるといったことも見えてきました。世界的に環境問題も浮上する今、私たちの生活を見直さなくてはいけないと思いました。

研修を経て自分が得たもの

この研修で私が得たものは、コミュニケーション能力の向上と医学を学ぶ上での英語の重要性が再確認できたこと。インドネシア学生の学びの精神に感化され、自分の学びに対する姿勢が向上したということ。研究マインドが大いに刺激されたということです。

一番身についたものはコミュニケーション能力だと思います。研修に行く前は、自分の英語力でやっていけるのか本当に不安でした。一緒に研修に参加した同じ医学部4回生の小野真彩さんは1年のアメリカ留学を経験されていて、こんな私が一緒に行っても大丈夫だろうかと思っていました。インドネシアについてすぐは、小野さんに頼ることが多々あったと思います。しかし、到着した次の日からはお互いに行くところが別々だったので、自分で話さなくてはいけなくなりました。たった3週間でしたが、ほとんど英語しか使わなかったので、スピーキングやリスニングの力は以前よりも向上したと思っています。自分の発音等にはまだまだ自信がありませんが、この3週間で積極的にコミュニケーションを取ろうとすれば案外やっていけるのだと、自分から話そうという姿勢に変わっていきました。

また、英語の重要さというものを改めて感じました。日本で医学を学ぶには、ほとんどの医学書が日本語訳されており、普段からそれを使っているため、英語を使いません。しかし、インドネシアのような国では、医学を学ぶのに訳本などあまりないから英語を読まないといけないということを知りました。だから、現地の学生は医学用語も英語ですべて覚えているのだと思いました。私は研修中に医学英単語がわからず困ったことが多々ありました。自分を向上させるためには、今後海外にでることは必須であり、そのとき医学英語がわからなければすごく苦労すると思うので、これから医学を勉強する際には英単語を積極的に覚えていこうと思いました。

さいごに

この研修を行うにあたって、たくさんの方々にお世話になりました。福井大学のゲノム科学・微生物学領域の定 清直先生、千原 一泰先生、竹内 健司先生、事前実習をしてくださった感染症・膠原病内科学の岩崎 博道先生、研修先でお世話になった神戸大学の森 康子先生、内海 孝子先生、清水 一史先生、学務室の方、現地の医師や、ITDの方々、現地の学生方など多くの人のお力添えでこのような貴重な経験をさせていただきました。この場をお借りして心から感謝申し上げます。