救急の最前線から、
被ばく医療の未来へ
- 小淵 岳恒
- KOBUCHI Taketsune
- 高度被ばく医療支援センター 教授(救急・総合診療・被ばく医療)
Profile
福井県出身。2000年、福井医科大学卒業。同年、同大医学部附属病院第2外科研修医。2002年、長浜赤十字病院外科。2005年、福井大学医学部附属病院救急部医員。2007年、同大医学部附属病院救急部助教。2013年、同大医学部附属病院総合診療部助教。2015年、同大大学院医学系研究科附属地域医療高度化教育研究センター特命講師。2016年、同大医学部附属病院救急部講師、福井メディカルシミュレーションセンター副センター長。2023年、同大高度被ばく医療支援センターセンター長。2025年より現職。
研究者詳細ページ
被ばく医療 × 救急
私は、高度被ばく医療支援センターと附属病院の救急部に所属しています。被ばく医療と救急には深いつながりがあります。
意識するきっかけは、2004年の美浜原子力発電所の事故でした。その際救急部が率先して負傷者を受け入れたこともあり、「有事の入り口は救急だ」と痛感したのです。被ばく者は出なかったものの、原発事故の現実を前に学びの必要性を再確認し、2009年にアメリカで被ばく医療を学びました。当時はその知識を国内で実践する日が来るとは想像もしていませんでした。
しかし、2011年、東日本大震災が起こります。地震、津波、原発事故が連鎖した複合災害でした。
災害医療だけでなく、被ばく医療の知識も必要になる現場で活動にあたり、「被ばく医療と救急は切っても切れないものだ」と強く実感しました。
ここ福井も原発立地県です。私が責任者を務める当センターは、国の指定を受けた北陸初の機関で、平時は人材育成、有事は前線基地や司令塔として機能します。救急と被ばく医療、双方の経験を生かし、幅広く対応できる人材育成に力を入れています。
経験を次世代につなげる教育を
教育するうえで特に大切にしているのが、「リスクコミュニケーション」です。災害時は正しい情報がなかなか伝わりません。だからこそ不安や疑問などを医療者、被災者、住民などが共有し、対話で信頼を築くプロセスの徹底が必要です。
一つ、印象深いお話があります。福島から県外に避難した親子が、医療機関を受診したときのこと。事故から日数が経ち、被ばくの恐れはない状況でしたが、診察室の医師は全身防護服姿だったそうです。お母様は「医療者にまで差別されたら、どう生きていけばいいのか」と愕然としたといいます。これを聞き、医療者への教育とリスクコミュニケーション徹底の必要性を、深く胸に刻みました。
目に見えず、形もない放射線への不安は強く、リスクも0にはなりません。だからこそ正しい知識を持ち、不安を抱える患者や家族に、どう向き合うべきかを学生に伝えています。
これまでの経験を教育に落とし込み、未来の医療者を育てること。それが、今の私の展望です。

「福井全国の被ばく医療に携わる医療者を対象とした、
中核人材研修(サーベイメータを用いた汚染検査法)の一コマ
コロナをきっかけに、ガーデニングにハマっています。手をかけた分だけ応えてくれるのが可愛く、心の癒しになっています。


