小児期の逆境体験(幼少期の心の傷)が 遺伝子レベルの変化を引き起こし、脳の発達に影響を及ぼす ― 予防と支援への新たな手がかり

ホーム > 教育研究成果 >  小児期の逆境体験(幼少期の心の傷)が 遺伝子レベルの変化を引き起こし、脳の発達に影響を及ぼす ― 予防と支援への新たな手がかり

本研究成果のポイント

◆小児期の逆境体験(本研究においては、大人から子どもへの不適切な関わり [マルトリートメント、略してマルトリ])が子どもの「DNA上の化学修飾にしるし」として残る部分を明らかにしました。司法解剖例や児童相談所の介入を受けた子どもを対象にした世界最大規模の網羅的な遺伝子解析による成果です。
◆遺伝子解析に加え、世界最大規模の頭部MRI撮像による脳構造解析も同時に行い、感情や記憶、人との関わりを担う脳部位に違いを見つけ、それらは上述の網羅的な遺伝子解析で見つかった変化と関連することも明らかにしました。このようなデータ駆動型の証明は、より客観的で確かな発見と言え、マルトリを経験した子どもの心身の問題の機序解明につながる可能性があります。
◆この発見は、マルトリを早く見つけ出し、子どもを守るための新しい方法につながると期待されます。

概要

 福井大学と広島大学の共同研究チームは、司法解剖例・児童相談所の介入後間もない乳幼児・児童相談所の介入後で頭部MRI撮像を受けた思春期の子どもたちと、一般の子どもたちを対象に網羅的な遺伝子解析の比較をマイクロアレイという手法で行い、マルトリを経験した子どもに特徴的に見られる4つのDNAメチル化部位(CpG部位)注1の違いを発見しました(図A)。また、胸腺重量比、認知機能測定、頭部MRI撮像による脳構造解析も同時に行い、感情や記憶、人との関わりを担う脳部位に違いを見つけ、それらは上述の網羅的な遺伝子解析で見つかった変化と関連することも明らかにしました(図B)。本研究で捉えた4つのDNAメチル化変化に基づく「メチル化リスクスコア(MRS)」注2は、独立した外部データでもマルトリを経験した子どもを一定の精度(AUC=0.672)で判別可能であることが確認され、マルトリ(子ども虐待)リスクの客観的評価に活用できる新たな生物指標として社会的・臨床的意義が期待されます(図C)。

論文名

Multi-epigenome-wide analyses and meta-analysis of child maltreatment in judicial autopsies and intervened children and adolescents.
日本語翻訳:「司法解剖例および支援介入を受けた子ども・思春期における小児マルトリートメントの包括的エピゲノム解析とメタ解析」

著者

Nishitani S, Fujisawa TX, Takiguchi S, Yao A, Murata K, Hiraoka D, Mizuno Y, Ochiai K, Kawata NYS, Makita K, Saito D, Mizushima S, Suzuki S, Kurata S, Ishiuchi N, Taniyama D, Nakao N, Namera A, Okazawa H, Nagao M, Tomoda A.

西谷 正太  福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 特命講師
藤澤 隆史  福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 准教授
滝口 慎一郎  福井大学医学部附属病院子どものこころ診療部 特命助教
矢尾 明子  福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 学術研究
村田 和大  広島大学大学院医系科学研究科法医学研究室 助教
平岡 大樹   福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 特命助教
水野 賀史  福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 准教授
落合 恵子  大阪大学大学院連合小児発達研究科 博士後期課程大学院生
Natasha Kawata  福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 特命助教
牧田 快  福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 特命助教
齋藤 大輔  福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 特命准教授
水島 栄  福井大学医学部附属病院子どものこころ診療部 特命職員
鈴木 静香  大阪大学大学院連合小児発達研究科 博士後期課程大学院生
倉田 佐和  福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 特命助教
石内 直樹  広島大学大学院医系科学研究科附属死因究明教育研究センター臨床法医学門 特任助教
谷山 大樹  広島大学大学院医系科学研究科分子病理学研究室 助教
中尾 直己  広島大学大学院医系科学研究科法医学研究室 博士課程大学院生(MD-PhDコース)
奈女良 昭  広島大学大学院医系科学研究科法医学研究室 教授
岡沢 秀彦  福井大学先進部門 高エネルギー医学研究センター 教授
長尾 正崇  広島大学大学院医系科学研究科法医学研究室 教授
友田 明美  福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 教授

掲載誌

「Molecular Psychiatry」

DOI

10.1038/s41380-025-03236-1
プレスリリース資料はこちらをご覧ください。

研究者情報

友田 明美 教授

問い合わせ

取材申し込み等、問い合わせはこちらのページからお願いします。

│ 2025年10月15日 │
ページの先頭に戻る
前のページに戻る