◆アメリカで実施されている世界最大規模の小児縦断研究「Adolescent Brain Cognitive Development(ABCD) Study注1」(約1万人の子どものデータ)を用いて、スクリーンタイム(テレビ・ゲーム・スマートフォンなどの利用時間)と注意欠如多動症(ADHD)注2症状、そして脳の構造注3の関連を検証しました。
◆スクリーンタイムが長い子どもほど、2年後にChild Behavior Checklist(CBCL)注4で測定したときのADHD症状の得点が高くみられ、さらに前頭葉・側頭葉など脳の皮質が薄いことを発見しました。
◆また、脳全体の皮質の体積注5がスクリーンタイムとADHD症状の関連を部分的に仲介(媒介)していることが明らかになり、スクリーンの利用が脳を通じて行動に影響を与える可能性が示されました。
これまで、子どものスクリーンタイム(テレビ・ゲーム・スマートフォンなどの使用時間)と、注意欠如多動症(ADHD)症状の発達、および脳の構造の関連は十分に明らかにされていませんでした。
福井大学子どものこころの発達研究センターの寿秋露特命助教、山下雅俊特命助教と水野賀史准教授の研究グループは、世界最大規模の小児縦断研究「Adolescent Brain Cognitive Development(ABCD) Study」のデータを用いて、これら三者の関係を詳しく分析しました。本研究では、ベースライン時(9~10歳)の10,116名と、2年後の追跡時点で得られた7,880名の子どもを対象に、スクリーンタイム、ADHD症状(Child Behavior Checklist(CBCL)により評価)、脳構造(MRIによる測定)の関連を調べました。
分析の結果、スクリーンタイムが長い子どもほど、2年後にCBCLで測定したADHD症状の得点が高くみられる傾向があり、あわせて脳の一部(右側頭極、左上前頭回、左吻側中前頭回)で皮質が薄くなる傾向があることがわかりました。さらに、脳全体の皮質体積がスクリーンタイムとADHD症状の関係を部分的に仲介(媒介)していることも確認されました。
これらの知見は、スクリーンタイムがADHD症状および脳構造、さらにそれらの発達と関連していることを示しており、スクリーンタイムとADHD症状との関連に関わる神経メカニズムの解明に重要な示唆を与えるものです。
本研究は、発達期におけるデジタルメディア利用の脳科学的理解を深め、今後の健全なメディア使用ガイドラインの策定や教育・医療現場での支援方針づくりに貢献することが期待されます。
Association of Screen Time with Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Symptoms and Their Development: The Mediating Role of Brain Structure
日本語翻訳:「スクリーンタイムと注意欠如多動症(ADHD)症状およびその発達との関連:脳構造の媒介的役割」
Qiulu Shou, Masatoshi Yamashita, Yoshifumi Mizuno
寿 秋露 福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 特命助教
山下 雅俊 福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 特命助教
水野 賀史 福井大学先進部門子どものこころの発達研究センター 准教授
「Translational Psychiatry」
10.1038/s41398-025-03672-1
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